※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


「本当に、ありがとうございました」

「……思っていたのと違う形だったけど、あれで良いのか?」


 グラディアとエーヴァルトは二人、並び歩いていた。二人の手は、しっかりと繋ぎ直されている。グラディアは穏やかに微笑みながら、エーヴァルトのことを見上げた。


「はい。あんな人に大事な親友を嫁がせるわけにはいきませんし、わたくしも彼と結婚したいとは思いません。これで全部おしまいです」


 そう口にしながら、グラディアの心がチクリと痛む。

 クリストフとの関係が終わること。それはエーヴァルトとの別れを意味していた。それだけがグラディアとエーヴァルトを繋ぐ鎖だからだ。グラディアは一人、密かに表情を曇らせる。


(これから先もエーヴァルト様と一緒に居たい)


 けれどそんなこと、とても言えなかった。

 魔法のおかげで一年中、全ての季節の植物が楽しめる学園内の庭園は、二人のお気に入りの場所だった。けれどエーヴァルトはもう、彼の元居た場所に帰らなければならない。どんな理由であれ、たくさんの女の子たちがエーヴァルトの帰りを待っている。そう思うと、心が痛くて堪らなかった。


「そうか」


 エーヴァルトは短くそう答えた。
 きっと彼にとっては、こうして女性と手を繋いで歩くことは当たり前で、何でもないことなのだろう。けれど、グラディアにとっては特別な瞬間だった。きっと一生忘れることのない。短くて、けれど大切な恋だった。

 立ち止まり、じわりと瞳に涙が滲む。手放さなければならないと分かっているのに、指先も手のひらも、ちっとも動きそうにない。


< 19 / 528 >

この作品をシェア

pagetop