※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 こんな形で自分を貶められるのは、生まれて初めての経験だった。まるで自分の存在を否定されたかのような屈辱。それが事実であっても嘘であっても、アンナにとっては十分な仕打ちだ。


「殿下は殊の外俺を重用し、信頼しているからな。――――残念ながら全て事実だよ。そもそも、殿下におまえのことを教えたのは俺だ。まぁ、まさか結婚に至るとは思っていなかったが、見てくれだけは良いからな。お飾りの妻として、適当に飼い殺すおつもりだろうよ」


 言葉の刃が鋭くアンナに突き刺さる。


(自業自得だわ)


 きっと、アンナが受けた屈辱と同じかそれ以上のものを、この男性は味わったのだろう。その報いを今、受けているだけなのだと、アンナは自分に言い聞かせる。

 けれど、すぐさま高すぎる自尊心が邪魔をした。
 自分が愛されないことも、無価値とみなされることも、アンナは考えたことが無かった。
 アンナはいつだって、自分という人間の価値を信じていた。正しいと思い込んでいた。だから、気持ちを切り替えようにも、どうしたら良いのか分からない。


「じゃぁな。……精々藻掻き苦しめ、バカ女」


 最後に捨て台詞を残し、男は控室から去っていった。一人残ったアンナは呆然と立ち尽くすことしかできない。式はもう、目前に迫っていた。


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