※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(心配しなくても、ちゃんと分かってますよ……)


 悪女の演技は多分、得意中の得意だ。
 だって、あの母親の恨み言を毎日聞いて育ったのだもの。相手がどんなことを、どんな風に言われたら嫌なのか、それを聞いたうえでどう動くのか、嫌でも予想が出来てしまう。


「やっぱり、今までは猫を被っていたのね!」

「ええ。そうした方が良い殿方を釣りあげられますでしょう? まさか、異母姉さまがずーーっと狙っていらっしゃったアイザック殿下が釣れるとは思ってもみませんでしたけど」

「あなたのその発言、殿下への不敬になるわよ!」


(だから、そうと分かってて言ってるんですって)


 恐らくだけど、わたしの周りには殿下のつけた護衛が付いている。異母姉さまの証言だけじゃ信じてくれないかもしれないけど、別の第三者の証言もあれば話は別だ。こんな性悪女とは結婚できないと、婚約を破棄してくれるかもしれない――――っていうか、普通ならそうすると思う。


「殿下に言いつけてやるんだから!」

「まあ異母姉さま、それは困ります。折角殿下の婚約者になれましたのよ?
だけど、ずーーっと婚約者候補どまりだった異母姉さまと婚約者であるわたし、殿下は一体どちらの言うことを信じるのかしら?」


 その瞬間、異母姉さまはわたしの頬をバチンと叩くと、踵を返して走り出した。頬がじんじんと熱く疼く。


(わたしへの罰はこんなもんじゃ足りないわね)


 どうか異母姉さまの想いがアイザック殿下に届きますように――――そう願わずにはいられなかった。


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