※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

23.呪われ公爵は愛せない(2)

***


「君がそんなに融通の利かない男だとは思わなかったよ」


 呆れるような声音。ワイングラスを片手に、寛いだ様子で首を傾げる。幼馴染で伯爵位を持つ親友、リヒャルトだ。


「別に、融通が利かない訳では」

「利いてないって。だって、八歳も年下の可愛い奥さん貰っといて、同じ寝室で眠っといて、一回も手を出してないなんてあり得ない。女性に対してとても失礼だし、男としてカッコ悪いと思う」


 首を横に振りつつ、リヒャルトは小さくため息を吐く。


「だからこそ、初めにきちんと『おまえのことは愛せない』と伝えたし、寝室は別にするよう説得しているのだが」

「だから! そこが一番馬鹿なんだって! 世の中には愛情のない夫婦なんて幾らでも存在するだろう? 政略結婚なんだし、わざわざ宣言する必要ないって。おまえにもそれなりの事情があるのは知ってるけどさ」


 リヒャルトの言葉にアンブラはほんのりと目を丸くし、俯く。


(それなりの、か)


 他人から見ればその程度の認識だろう。だが、アンブラにとっては違う。
 目を瞑れば、暗く冷たい記憶が心の中を支配する。

 幼少期から仲の悪かった両親。父が母を顧みることは無く、母はそんな父を毎日毎日責め続けていた。


『あなたと結婚するんじゃなかった! わたしの時間を返してよ!』


 ハルリーと同じく、借金を肩代わりすることで結ばれた婚姻関係。それでも、人並みの幸せが手に入れられると信じていたのだろう。母親はいつも愛情に飢え、ヒステリックに泣き叫んでいた。そして、そんな生活に耐え切れず、アンブラが幼い頃に家を出た。以降、顔すら見ていない。



「魔女の呪い、だっけ? それって本当に子孫にまで継承されるもんなの?」


 リヒャルトが尋ねる。好奇心と疑念の混ざり合った表情。アンブラは眉間に皺を寄せる。


「知らん。――――少なくとも、俺の両親は不幸だった」


 それが全て。呪いというものは存在する。

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