※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ミラ、どうして泣くの?」


 ソーちゃんが首を傾げる。涙を拭いながら、無表情のままわたしを見つめる。


「何でだろう? 嬉しいから?」


 完全に望みが無いわけじゃなかった。少なくとも、わたしはまた、スタートラインに立つことを許されている。チャンスを与えられているんだもの。


「名前」

「ん?」

「ミラ、呼んでよ。俺の名前。いつもみたいに」


 ソーちゃんが言う。
 いつもと同じ無表情。だけど、頬が少しだけ紅く染まっているように見えて。


「……ソーちゃん」


 恐る恐る口にすれば、彼はゆっくりと目を細めた。


「ソーちゃん」

「うん」


 別に用事なんてないのに。嬉しくて何度もソーちゃんの名前を呼んでしまう。
 だけどソーちゃんは、邪険にすることなく、優しくそれを受け入れてくれた。


(結婚相手に、わたしなんてどうですか?)


 今なら頷いてもらえるかも――――そんなことを思うけど、オーケーを貰えなかったのはつい昨日のこと。
 わたしは必死に言葉を呑み込んだ。


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