※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(どうして?)


 二人の間には何の約束も存在しない。それなのに、どうしてジュールはそんなにも嬉しそうな顔で笑うのだろう。ノエミがこの場に居ることを喜ぶのだろう。
 どうしてノエミは、ジュールが自分に会いに来ているのだと――――そう思ってしまったのだろう。


 頭に浮かぶ疑問の数々をノエミは一人呑み込んでいく。

 彼が毎日、閉館間際に図書館へ現れる理由も、ノエミを寮まで送ってくれる理由も。門限ギリギリまで話をすることも、その間ずっと手を繋いでいることも。ノエミだけに見せる嬉しそうな笑顔や温かな眼差しも。


(そんなの、全部勘違いなのに)


 自分の願望が見せる夢だと分かっていても、ついつい期待せずにはいられなくなる。


「ねぇ、ノエミ。
どうして、って聞いてくれないの?」


 まるでノエミの考えを読むかの如く、ジュールが尋ねる。


「え? どうしてって……」

「俺はね、ノエミがここで俺を待ってくれてるって思ってた」


 そう言ってジュールは、そっとノエミの手を握る。余程急いでいたのだろう。彼の手のひらは普段よりも汗ばんでいるし、とても熱い。


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