※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

24.その一言が聞けなくて(2)

***


 そうして二人は恋人になった。

 ジュールは忙しい中でもノエミのために出来る限り時間を割き、側に居ようと努力してくれたし、とても大事にしてくれる。交際を隠すことはしなかったし、ジャスティン殿下に対しても、ノエミは自分の恋人だとハッキリ紹介してくれた。


「恋人か……良いね、羨ましい響きだな」


 ジャスティンはそう言って楽しそうに笑う。
 同じクラスに在籍しているとはいえ、会話をする機会など皆無だったノエミは、緊張で身体を強張らせる。


(否定されたり、釣り合っていないって言われるんじゃないかって心配していたけど)


 ノエミの不安とは裏腹に、ジャスティンは彼女に対して、とても好意的だった。


「そんなこと言って……殿下にはちゃんと婚約者が居るじゃありませんか」


 呆れたように笑いながら、ジュールは小さく首を傾げる。自身と接する時とは一味違った表情や仕草に、ノエミの心臓がドキドキと鳴り響いた。


「まあね。
でも、恋人っていうのは想いが通じ合ってる者同士のことだろう? 始まりが政略結婚だった俺としては憧れるというか、羨ましいって思ってしまうんだよ」


 そう言ってジャスティンはノエミに向かって笑い掛ける。


「ノエミ嬢は見る目があるね。ジュールは良い男だよ。俺が保証する」


 その瞬間、ジュールは驚きに目を丸くすると、恥ずかしそうに頬を染める。何故だかノエミはそれがとても嬉しくて、ニコリと目を細めて笑った。



 けれど、皆が二人の交際を好意的に見ているわけではない。


「どうして貧乏伯爵家の女がジュール様と?」


 学園に通う殆どの令嬢たちが、陰でそんなことを囁く。


(そんなの、わたし自身が一番そう思っているわ)


 彼女達の声に気づかない振りをしながら、ノエミは心の中で密かにそう呟いた。


 ジュールがノエミを大事にしてくれているのは間違いない。行動が、言葉が、雄弁に彼女への想いを物語っているからだ。

 けれど、どうしてノエミを選んだのか、その理由を尋ねたことは無い。知りたいとも思わなかった。


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