※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


「良い天気だなぁ、オルニア」

「ええ、本当に」


 オルニアは半ばげんなりしながら、目を細めた。
 太陽よりも暑苦しい男に手を握られ、まるで恋人同士のように街を歩く。目立たぬよう、クリスチャンの金髪は帽子で覆い隠され、騎士達は目立たぬように離れた所から警護をしている。
 けれど、目敏い人は居るものだ。先程から、チラチラ視線を感じるし、『殿下だ』との囁きが耳に届く。


(良いのかなぁ~~噂になっちゃうよ?)


 クリスチャンは平民からの人気が高い。けれど、彼の結婚相手として望まれているのが平民という訳では決してない。皆が敬愛するクリスチャンに、素晴らしい妃を迎えて欲しいと願っている。少なくとも、オルニアのような得体のしれない悪女では無いのだ。


「しかし、本当に良いのか? もっと沢山買って良いんだぞ?」

「いいえ。殿下が使うお金は、民からの税金。これ以上はとても……」

「なんて慎ましいんだ! 益々気に入ったぞ、オルニア!」

(そりゃ、どうも)


 気に入られたくてした発言ではない。紛うことなき、オルニアの本音だった。


(胸の辺りがモヤモヤする)


 人に嫌われるにはどうすれば良いのだったか――――数年前の記憶を呼び起こす。
 その途端、頭が割れる様に痛く、猛烈な吐き気に襲われた。忘れかけていた痛み。それは未だ、オルニアの心と身体を蝕んでいる。


「オルニア?」


 クリスチャンが心配そうに顔を覗き込む。肩を抱く優しい手のひら。温かい眼差し。


(嫌われるのは、嫌)


 目の前の逞しい胸板に縋りつきたくなった。



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