※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

28.恋人の居る人を好きになってしまいました(2)

 それから、アントワーヌ様は頻繁にわたしの教室を訪れるようになった。その度にわたしは魔法を使って身を隠し、彼と会わないようにしている。つい先程まで教室に居た筈のわたしが居なくなることで、不思議に思うクラスメイトもいたようだけど、今のところ事情を尋ねてくるものはいない。恐らくわたしという人間に興味がないからだけど、余計な詮索をされないので、正直とても助かった。


(アントワーヌ様も、きっとすぐに諦める筈)


 彼の伝えたいことが何なのかは分からない。どんな理由にせよ、わたしはもうアントワーヌ様に関わる気はない。彼を忘れるための努力をすべきだと思った。



「お父様……わたしも他の御令嬢のように、そろそろ結婚を考えねばならない頃合いではないでしょうか?」


 ある日、わたしは両親に向かってそんな風に話を切り出した。
 父は目を丸くしつつ、そっと母に目配せをする。二人は小さくため息を吐きつつ、困ったように眉根を寄せた。


「そうは言ってもシュザンヌよ――――おまえも知っての通り、父も母も社交は大の苦手でね」


 蛙の親はやはり蛙――――二人の社交性の無さは、娘のわたしもよく知っていた。わたしは唇を尖らせつつ、そっと身を乗り出した。


「伯父様ならば良い伝手をお持ちでしょう? どなたか良い人を紹介していただけるよう、頼んではいただけませんか?」

「それは構わないが――――何もそこまでして結婚を急ぐ必要はあるまい。子爵家はお前の弟が継ぐのだし、シュザンヌはずっと恋愛結婚に憧れていただろう?」

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