※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(どうしよう……一体どうすれば良いの?)


 シャルレーヌ様は、わたしが彼女を傷つけた張本人だと――――アントワーヌ様と二人きりで会っていたとお知りになったのだろうか。だからこそ、わたしを呼び出したのかもしれない。そう考えると辻褄が合う。


(わたしとアントワーヌ様との間には何もなかった)


 わたしがただ、一方的に懸想していただけ。彼が婚約をしていたことを知らなかったし、そうと知ってからはちゃんと弁えている――――情けないことに、頭に浮かんだのはそんな言い訳の数々だった。


(そんな事情、シャルレーヌ様には関係ないのに)


 傷つけてしまったことには変わりない。被害者面をするなんて愚の骨頂だ。わたしがすべきことは一つしかないのに、何を迷っているのだろう。


「実は――――」
「あの……この度は本当に、申し訳ございませんでした!」

「……へ?」


 シャルレーヌ様が話を切り出すと同時に、わたしはソファから滑り降り、床に額を擦りつけた。慌てた様子でわたしの側に駆け寄ったシャルレーヌ様が「顔を上げて頂戴?」と口にしたけど、わたしは首を横に振りつつ、ギュッと目を瞑った。


「わたし……知らなかったんです。アントワーヌ様に婚約者がいらっしゃるなんて――――――いえ……そうじゃなかったとしても、軽々に男性と二人きりになるべきではありませんでした。誤解を招くようなことをして、本当に申し訳ございません!」


 言いながら、涙がポロポロと零れ落ちた。自分の不甲斐なさが悔しくて堪らない。
 シャルレーヌ様はそのまましばらく、わたしの側に座っていた。頭を下げているせいで、彼女がどんな顔をしているのかは分からない。怖くて怖くて堪らなくて、膝がガクガクと震えた。


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