※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


「と、いうことがあってね?」


 興奮を抑えられぬまま、私は必死に声を潜める。人払いをした部屋には私と、もう一人――四年前に私と婚約を結んだ、侯爵令息レグラスが向かい合って座っていた。


「姫様、それ――極秘情報なのでは?」


 レグラスは眉一つ動かすことなくそんなことを言う。
 エメラルド色をした切れ長の瞳にサラサラのプラチナブロンド。人形のように整った目鼻立ちをした中性的な男性だ。社交界では彼を『氷のようだ』と囁く人もいるけれど、常に冷静沈着で文武両道、抜きんでて優秀な点を評価され、私の婚約者となった。


「もちろん。妊娠中は何が起こるか分からないものね。だけど、あなたは既に身内のようなものだし、お父様も知らせて構わないって言ってたもの」


 レグラスと私は二年後――私が十八歳になったら結婚する予定だ。レグラスは私の二歳年上。知り合ったのは婚約を結ぶ何年も前だし、接してきた期間が長いため、婚約者というよりも頼り甲斐のある兄みたいな感覚だ。


「……陛下がそんなことを」

「えぇ。このことを知ったら、きっと国中がお祝いムードに包まれるわね。十六年ぶりのロイヤルベビーだし、皆、心の中では女王が立つことに不満を抱いていただろうから……なんて、生まれてみないと性別は分からないらしいんだけど」


 とはいえ、生まれてくる子は『男児』だろうという確信がある。昔から、そういう勘は当たる方だった。


「そうですか。では、良かったですね――――と、そう申し上げてよろしいのでしょうか?」

「もちろん! 家族が増えるのは幸せなことだもの。嬉しく思っているわ」


 この年にして両親が仲睦まじいことも――多少の気恥ずかしさはあるものの、幸せなことだ。私も二人のように、レグラスと温かい家庭を築けたら良いなぁと、そう思っている。


(彼がどう思っているかは分からないけど)


 相変わらず無表情のままのレグラスを見つめつつ、私はふふ、と笑った。


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