※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「あの……ここはどこでしょう?」


 尋ねつつ、ノナは自身が男性の腕に抱かれていることを自覚する。宝物に触れるかの如く丁寧にノナを抱え直すと、男性はゆっくりと歩き始めた。


「これから君が暮らす場所だ」


 どこか淡々とした口調だが、笑顔は柔らかく、温かい。ノナは目を丸くしつつ、ゆっくりと前を向いた。目を凝らせば、霞の中にひっそりと隠れるように、大きくて荘厳な建物が見える。小さな宝石を幾つもちりばめたような白く輝く石造りの柱に、紋様の刻まれたエメラルド。誇りと威厳を塗り固めたような佇まいに、ノナは思わず息を呑む。


「あの……自分で歩きますから」


 途端に気恥ずかしくなって、ノナはそっと身体を捩った。けれど、男性は先程よりも腕に力を込めると、しっかりとノナを抱え直す。


「そう言ってくれるな――――ようやく触れることが出来たのだ」


 そう言って男性はうっとりと目を細める。男性はノナの頬を撫でながら、花が綻ぶような笑みを浮かべた。


(一体、どういうことなのでしょう?)


 どうやらノナは、これまで居た世界とは別の世界に連れて来られたらしい。
 人違いでは?と思ったものの、男性はハッキリとノナの名前を呼んでいる。


(こんな美しい方、一度お会いしたら忘れる筈がございませんのに)


 そうこうしている内に、男性は建物の中へと進んでいった。上品な衣に身を包んだ従者らしき人々が、恭しく頭を垂れて二人のことを出迎える。ノナはほんのりと目を丸くしつつ、彼等のことを覗き見た。


(パッと見た感じは、人間とそこまで変わらないけど)


 姿かたちは同じでも、醸し出すオーラは人間のそれとは違っている。ノナを抱く男性ほどではないが、彼等からも神がかった何かを感じ取っていた。



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