※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「そっ……そういえば今日、パロット様に『番』について教えていただきましたの」


 思わずノナはそう口にする。この甘ったるい雰囲気を少しでも和らげようと思ったからだ。


「『番』について?」


 効果はてき面だった。エーリは首を傾げつつ、眉間にそっと皺を寄せる。


「はい。わたくしはエーリ様の番なのでしょう? 初めてお会いした時、わたくしを『運命の女』だと仰っていましたものね」


 そう言ってノナはエーリを仰ぎ見た。エーリはノナをギュッと抱き締めたまま、神妙な面持ちを浮かべている。


「――――この世には本当に、運命が定める恋が存在するのだなぁと、わたくし感心しましたの。ずっとずっと、旦那様がわたくしをここへ連れてきた理由が不思議でしたから」


 ノナはそう言って目を細めた。

 ノナは選ばれなかった子だ。親からも、元婚約者からも、誰からも選ばれず、必要とされなかった。
 それなのに、エーリはノナを攫った。ノナを運命の女だと――――必要だと言って。そのことがノナの心を優しく、激しく揺れ動かす。


「ノナは私の運命の(ひと)だよ」


 そう言ってエーリは、甘えるように頬擦りをする。
 番――――それは、決して切れることのない、運命の糸のようにノナには感じられた。縋っても切れることは無く、少し手を離したところで、またすぐに手繰り寄せられる――――。


(運命なら、お姉さまに奪われることも無い)


 哀し気に微笑みつつ、ノナはゆったりとエーリに身体を預けた。


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