※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(エーファに会いたい)



 気づけば僕の足はエーファの元へと向かっていた。

 庭師に花束を用意させ、僕は馬を走らせる。胸がバクバクと鳴り響き、喉のあたりに得も言われぬ感覚が込み上げる。


(昨日の僕ではダメでも、今日の僕ならば何とか出来るかもしれない)


 僕はまだ、肝心なことを何一つ、エーファに伝えられていない。
 身を焦がすような愛情も、感謝も、後悔も、謝罪も、未来への願望も、何一つ伝えられなかった。


(僕は馬鹿だ)


 そう思うと、何だか笑えて来てしまう。
 滑稽で愚かな、恋に我を忘れた男。僕をそんな風にできるのはこの世でただ一人、エーファだけだ。



 侯爵家に着くと、普段通されるサロンやエーファの部屋ではなく応接室へと通された。それだけでも胸を潰されるような心地がするのに、エーファの父親が僕に告げたのは、もっと残酷な現実だった。


「留学⁉」

「ええ。殿下との婚約が破棄されましたし、学園に残るのは辛かろうと思いまして……。陛下の口添えをいただいて、隣国に留学することになったのです」

「そんな……」


 それっきり、僕は口を開くことが出来なかった。開けば最後、叫び出してしまいそうだったからだ。
 己をギュッと抱き締め、奥歯をグッと噛みしめる。走り出したくなるような、身体を掻きむしりたくなるような衝動。目頭が熱く、天を仰いだまま、顔を下ろすことが出来ない。


「本当に、俺は馬鹿だ」


 それ以外の言葉が見つからなかった。


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