※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


(――――こんな夜会、出るだけ無駄だ)


 王太子の位は辞退したものの、最低限、割り振られた公務は熟さなければならない。隣国の皇太子を迎えた歓迎の宴。そんなもの、僕にはどうだって良かった。心の中で深々とため息を吐きつつ、僕は偽りの笑顔を浮かべる。


 その時だった。
 ドクンと大きな音を立てて心臓が跳ねる。


(まさか、まさか……!)


 チラリと視界の端に映った輝く金の髪。たったそれだけの情報だというのに、僕の足は自然と動き出した。
 一歩進む度に甘やかな香りが近づき、目頭がグッと熱くなる。
 凛とした佇まい、優雅な所作。後姿だが、僕が見間違うはずがない。


「エーファ!」


 呼べば、彼女はゆっくりとこちらを振り向く。それから穏やかに目を細めて僕を見つめた。


「殿下……お久しぶりです」


 涙がポロリと零れ落ちる。公の場だというのに、止められない。


「エーファ、戻って来たんだな!」


 この三年間ずっと空っぽだった心の中が、温かな何かで満たされていく。
 エーファはあの頃よりも、ずっとずっと綺麗になっていた。まるで大切に磨き上げられた宝石のように光り輝き、あどけなさの代わりに大人の女性の色香が漂う。けれど、上品さは損なわず、まるで女神のような美しさだった。手を伸ばしたい。抱き締めたくて堪らなかった。


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