※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(僕はあんな風にエーファを笑わせてあげることが出来なかった)


 後悔が胸に込み上げる。
 何もかもが間違っていた。遅かったのだと思い知る。


(それでも僕は……)


「婚約おめでとう、エーファ」


 涙を堪え、僕はエーファに微笑みかける。エーファは大きく頷きつつ、僕のことを見つめた。


「ありがとうございます、殿下」


 僕は二人に小さく会釈をすると、ゆっくりと歩を進める。やがて、エーファの隣へ差し掛かった時、そっと身を屈めた。


「……これからもずっと、君のことを想うよ」


 そう口にすれば、エーファは目を丸くして、今にも泣き出しそうな顔で笑う。
 それは彼女を手放したあの日、心に焼き付いた表情にそっくりで。

 これからの彼女が幸せであってほしいと心から願う。
 だけど時々で良い。僕のことを思い出してほしい。僕の心は未来永劫、エーファだけのものだから。


「さようなら、殿下」


 けれどその時、エーファがそう小さく呟くのが聞こえてきて。


(本当に、僕は馬鹿だなぁ)


 流れる涙をそのままに、僕は声を上げて笑うのだった。


(END)
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