※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(ふぅん)


 エーヴァルトはそんな二人の様子を眺めながらふぅ、と息を吐く。事は単純なようでいて、案外複雑らしい。困惑しきったグラディアの表情に、エーヴァルトは唇を尖らせた。


「あの……実はわたくし、今日はあなたに紹介したい人がいるのです」


 そう言ってグラディアがエーヴァルトの方へ目配せする。打ち合わせでは、エーヴァルトの出番はもう少し先の筈だった。クリストフの人となりを見定めるためだ。けれど、間が持たないと判断したのだろう。グラディアは頻りに首をしゃくりながら、エーヴァルトへと助けを求めている。


「紹介したい人? 珍しいね。一体どんな……」

「グラディア」


 エーヴァルトは今まさに到着したかのように、庭園の入り口からグラディアを呼んだ。その瞬間、クリストフの瞳が驚愕に見開かれる。グラディアとエーヴァルトを交互に見ながら、ワナワナと唇を震わせる様子を、エーヴァルトは何とも言えない複雑な気持ちで眺めていた。


「紹介するわ。魔術科のエーヴァルトよ。わたくしの恋人なの」

「……どうも」

「こっ……恋人⁉ この男が、グラディアの⁉」


 眉間にクッキリと皺を刻み、クリストフは叫んだ。エーヴァルトがグラディアをそっと抱き寄せる。するとクリストフは、目にも留まらぬ速さで二人を引き剥がし、グラディアへと詰め寄った。


「ダメだよ、グラディア! その男は貴族科でも有名な女たらしだ! グラディア以外に何人も女がいるのに、そんな男を恋人だなんて……」

「しっ……知っています。それでもわたくしは、エーヴァルト様が好きなのです」


 クリストフの目を見ないようにして、グラディアは言う。


(嘘が下っ手くそだなぁ)


 エーヴァルトはため息を吐きつつ、真っ赤に染まったグラディアと、クリストフを見つめた。

 クリストフはエーヴァルトとは真逆のタイプだった。品行方正、一分の隙もなく整えられたヘアスタイルに服装。貴族とはこういう人間だろう、と世間が想像する通りの見た目をしている。短時間で性格までは分からないものの、恐らくは誠実で真面目な人柄なのだろう。だからこそ、グラディアは自分を選んだのだろうとエーヴァルトは思った。


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