※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 森を駆け抜け、クロシェットたちは一番近くの街に立ち寄った。
 街の中では、ウルもフェニも目立ってしまうので、それぞれ身体を小さくし、犬や小鳥のように振る舞っている。


「この二年半の間に、随分と様子が変わったのね」


 クロシェットの記憶の中にある寂れて廃れた街並みとは違い、街は美しく活気が溢れている。


『君が魔獣たちを封じたからだよ。湖にほど近いこの街が、影響を一番に受けていたからね。
離れていった人が少しずつ戻ってきて、復興を遂げたんだ』


 フェニが答える。
 彼はザックと旅をともにしていたため、外の様子に詳しい。


「……そう。だったら、わたしがしたことにも、少しは意味があったのかもしれないわね」


 呟きつつ、改めてぐるりと街を見渡す。
 楽しそうな声音、子どもたちの笑顔に、クロシェットは少しだけ目を細める。


「――――ねえ、聞いた? 勇者様のお話」


 けれどその時、背後から聞こえてきたセリフに、彼女は思わず目を瞠った。

 現在、この国における勇者はザックを指す。
 クロシェットは静かに耳をそばだてた。


「もちろん! 姫様とご結婚なさるっていうお話でしょう? 国中のみんなが知っているわよ」

「…………え?」


 ドクン、ドクンと心臓が跳ねる。


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