※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ん~~~~! ん〜〜〜〜〜〜〜!」
「マイリー、俺だよ。落ち着いて」
聞き慣れた声。振り向けばそこには、アスター殿下がいた。人差し指をそっと立て、静かに、と口にする。わたしは更にパニックに陥ってしまった。
(バレた! 殿下を付けてたことがバレてしまった!)
とてもじゃないけど、落ち着くことなんてできやしない。
最早これまで。少なくとも侍女はクビだろうし、きっと国内にはいられなくなる。
この状況を誤魔化すための何十・何百もの言い訳を考えながら、わたしは殿下を見つめる。冷や汗が流れ出し、顔からサッと血の気が引く。
だけど殿下は、わたしに関心がないらしい。屋敷の一点をじっと見つめながら、神妙な表情を浮かべていた。
「――――見つけた」
「えっ?」
殿下はそう言って真っ白な紙片を一枚取り出すと、静かに目を瞑った。
(何だろう)
数秒後、白紙だった紙の上に、何処からともなく文字が浮かび上がった。
インクとは全然違う。まるで炎が燃え広がるみたいに真っ赤に光り、ややして漆黒に染まっていく。神秘的なその光景に、わたしは目が離せなかった。
『確かに受け取った』
『はい。次も宜しくお願いしますよ、大臣』
束の間、文字が刻まれていく様子ではなく、その内容の方に目を奪われた。
(えっ? 何? 何なの、これ)
少しずつ、少しずつ文字が増えていく。それはまるで、今、まさに行われている誰かの会話を、そのまま文字に起こしたかのようだった。
(もしかして)
殿下はずっと、神妙な面持ちのまま、じっと目を瞑っている。神経を一点に集中し、耳をそばだてているのが見て取れる。
(今まさに、あの屋敷で収賄が行われている⁉)
今すぐ殿下から状況を聞き出したい。けれど、邪魔になるのが分かっているから、黙って口を噤むしかない。
「マイリー、俺だよ。落ち着いて」
聞き慣れた声。振り向けばそこには、アスター殿下がいた。人差し指をそっと立て、静かに、と口にする。わたしは更にパニックに陥ってしまった。
(バレた! 殿下を付けてたことがバレてしまった!)
とてもじゃないけど、落ち着くことなんてできやしない。
最早これまで。少なくとも侍女はクビだろうし、きっと国内にはいられなくなる。
この状況を誤魔化すための何十・何百もの言い訳を考えながら、わたしは殿下を見つめる。冷や汗が流れ出し、顔からサッと血の気が引く。
だけど殿下は、わたしに関心がないらしい。屋敷の一点をじっと見つめながら、神妙な表情を浮かべていた。
「――――見つけた」
「えっ?」
殿下はそう言って真っ白な紙片を一枚取り出すと、静かに目を瞑った。
(何だろう)
数秒後、白紙だった紙の上に、何処からともなく文字が浮かび上がった。
インクとは全然違う。まるで炎が燃え広がるみたいに真っ赤に光り、ややして漆黒に染まっていく。神秘的なその光景に、わたしは目が離せなかった。
『確かに受け取った』
『はい。次も宜しくお願いしますよ、大臣』
束の間、文字が刻まれていく様子ではなく、その内容の方に目を奪われた。
(えっ? 何? 何なの、これ)
少しずつ、少しずつ文字が増えていく。それはまるで、今、まさに行われている誰かの会話を、そのまま文字に起こしたかのようだった。
(もしかして)
殿下はずっと、神妙な面持ちのまま、じっと目を瞑っている。神経を一点に集中し、耳をそばだてているのが見て取れる。
(今まさに、あの屋敷で収賄が行われている⁉)
今すぐ殿下から状況を聞き出したい。けれど、邪魔になるのが分かっているから、黙って口を噤むしかない。