【コミカライズ】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない

【カマル視点】

 カマルは、ロベリアの後ろ姿を見つめながら、頬を染めるダグラスの肩を叩いた。

「お前、よけられるだろう?」

 ダグラスくらい優秀だったら抱きつこうとするロベリアを避けたり、事前に止めたりできるはずだ。それなのに毎回、律義に抱きつかれて動揺しているダグラスが面白くて仕方ない。

 ダグラスは、口元を手で覆いうつむいた。

「それが……ロベリア様に見とれてしまい……」

 顔から湯気が出そうなダグラスが言うには、笑顔で駆けよってくるロベリアに見とれているうちに抱きつかれてしまうので、毎回、本気で驚いているようだ。

「おい、ダグラス。もしロベリアが私の命を狙う刺客だったらどうするつもりだ?」

 ダグラスは少しも迷わず「そのときは、私がロベリア様に刺されているうちに、殿下はお逃げください。私はロベリア様に殺されるなら本望ですので」と真顔で言い切った。

「なんというか……まぁいい。私もお前たちが上手くいくことを望んでいたからな。これで少しはグラディオス公爵家を牽制できるだろう」

「グラディオス……アランの父ですか?」

 ダグラスの質問にカマルはうなずいた。

「そうだ。グラディオス公爵が私の妹シャロルとアランの婚姻を陛下に進言していてな。これ以上、グラディオス公爵に権力が集中するのは良くないと私は考えている。かといって、アランとロベリアが婚姻して、グラディオス公爵家とディセントラ侯爵家が繋がるのもやっかいだから、なにか良い方法はないかと思っていたら……。まさかお前がロベリアに惚れられるとはな」

 『二人が上手くいけばおいしい』くらいだったが、上手くいきすぎて、仲睦まじいダグラスとロベリアを見ていると少しうらやましくなってしまうくらいだった。

 いつもならこれで会話が終わるが、ダグラスは珍しく自分の意見を言ってきた。

「殿下、それなら回りくどいことはせずに、殿下が初めからロベリア様かリリー様を婚約者にすれば良かったのでは?」
「私の都合で一方的に婚約者にされたら相手の女性が可哀想だろう? もちろん、婚約者としては敬意を払って大切にするが、不都合になればすぐに切り捨てるような男だからな、私は」

 次期国王として優先することは国政であり、望むことは経済の発展や民の幸せだった。ダグラスのように『愛する人になら殺されても良い』と思うほど女性を愛するつもりはない。

(だからこそ、私は侯爵令嬢と護衛騎士の夢物語のような美しい恋愛が見てみたかったのかもな)

 そして、実際に見てしまうと多少うらやましく思ってしまう。カマルは冗談っぽくため息をついた。

「ああ、どこかに鋭く優秀で、心が強くて絶対に折れない信念を持っていて、私と一緒に歩んでも壊れない女性はいないかな?」

 急に黙り込んだダグラスは「思い当たる方が一人」と呟いた。

「とても優秀で、場の空気を読むことができ、臨機応変に対応ができる女性を知っています。私も一度、やり込められてしまい……」
「お前が?」

「はい、演技力も素晴らしく行動理念が『ロベリア様への愛』なので、とても分かりやすい上にまっすぐです。『ロベリア様からの愛』が揺らがない限り、ブレることのない強い方だと思います」
「それって……」
「ロベリア様の妹リリー様です」

 確かにカマルも以前、リリーについて『可愛らしい外見に似合わず鋭いこだな』という感想を持っていた。

「ダグラス、お前の意見は一理あるな。私もリリーは優秀だと思うし、私がディセントラ侯爵家を引き立てると、アランとシャロルが結婚してもグラディオス公爵家を抑えられる」

 ダグラスが鋭い瞳を向けてきた。

「殿下、ロベリア様と私の関係も有効活用していただきたいです。殿下のお力で、私がディセントラ侯爵家を継げるようにしてください。そうしていただければ、私はディセントラ侯爵として生涯、貴方様に忠誠を誓います。……貴方が、ロベリア様に危害を加えない限り」

 ただ後ろをつき従っていた優秀な護衛は、愛する者を得て一皮むけたようだ。ダグラスの黒い瞳には、純粋さだけではなく、何をしてでもロベリアを守るという強烈な覚悟が見えた。

「いいだろう。私が、お前とロベリアの婚姻を全面的に後押ししよう。そして、私が王位を継いだら、お前をディセントラ侯爵にしてやる。ロベリアには何があっても決して手を出さないと約束しよう。だからお前は安心して、これからも私に仕えるといい」

「有難き幸せ」

 ゾクッとするようなダグラスの冷たい声を聞きながら、カマルは『こんなに優秀な男がモテないなんて世の女性は見る目がない』と思ったが、『いや、違うな』と考えを改めた。

(ダグラスをここまで引き上げたのはロベリアだ。ロベリアに愛されなければ、ダグラスはいくら出世しても騎士団長程度で終わっていただろう。そう考えると愛というのも悪くないのかもな)

 カマルはダグラスに向かって「リリーを私の婚約者にする件は、前向きに検討しよう。もちろん、リリーの意見は聞くし無理強いするつもりはない」と伝えた。

「だが、一つ問題があってな。私は前にリリーに『この陰険クソ野郎!』と罵られたことがある。婚約以前に、話し合いにすらなるかどうか……」

 ダグラスは思いっきり目を見開いた。

「あ、えっと……。その、なんというか、殿下は良いところがたくさんありますよ! が、頑張ってください」

 同情たっぷりに非モテのダグラスに応援されて、カマルは少しだけイラッとした。
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