潮風、駆ける、サボタージュ

第10話 由夏

「藤澤は毎日毎日走ってた…って知ってるよな、本人なんだから。」
圭吾は小さく笑ったが、由夏は呆然としてとても笑うことなどできなかった。
二年間本当に毎日(とお)っていたんだ、と頭が理解したような、まだ追いついていないようななんとなく気持ちの悪い感覚だ。
「なんで…」
由夏が呟いた。
「なんで気づかなかったんだろう、二年も…だって、ずっと金髪だったよね…?」
圭吾は一瞬間を置いた。
「だから“藤澤は本当に前しか見えてないんだ”ってこと。」
ついさっき気にもとめず受け流した言葉を再び言われて、由夏はやはりきょとんとしてしまう。
「俺は藤澤に気づかれてないってずっとわかってたよ。だから毎日勝手に見学してから帰ってた。」
圭吾は続けた。
「あからさまに俺のこと嫌ってんだろうなって態度だったし。」
「嫌いまではいってない…苦手意識があっただけ。」
「過去形。」
「うん。今日苦手じゃなくなった。」
むしろ親近感を覚えてるくらいだ。
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