潮風、駆ける、サボタージュ
「そっからがまあ地獄。」
圭吾の思いがけない告白に、由夏はなんとなくざわざわと落ち着かない気持ちになった。
「親も先生も同級生も、腫れ物に触るように接するか…嫌味も言われたりしたな。俺自信は案外すぐに切り替えて、入った高校で成績良ければそれで良いだろうって思ってたんだけどな。」
「…強いね、高橋は。」
由夏が素直に褒めたが、圭吾は首を横に振った。
「全然。俺が金髪にしてるのにはいくつか理由があるんだけど…多分一番の理由は——」
いつも一段上にいて余裕のある態度の圭吾が今はなんとなく同じ目線になっているように見える。
「怖いんだよな。」
「怖い?」
「そ。勉強しないで受験失敗して今度は真面目に勉強してんだけど、これで失敗したら自分が全否定されるような気がしてる。だから表面上は真面目にやってることがバレないようにわざと金髪にした。藤澤は自分のことダサいって言ってたけど、俺の方がダサいだろ。」
由夏はぶんぶんと大きく首を横に振った。
「全然!」
それを見て圭吾は笑った。
「真面目に勉強してるのはあんまり知られたくないから塾にも行きたくなくて図書室で毎日毎日勉強してんだ。」
最近知った真面目な圭吾。その理由を知って由夏は少しだけ“嬉しい”と思ってしまった。自分と同じ、ただの高校生の圭吾。

「で、高校(ここ)に入学した後も俺なりに不安とかプレッシャーとかいろいろ抱えて孤独なガリ勉ライフを過ごしてた。」
「ガリ勉て…」
「そんな時…高一の夏、いつもは裏門から帰ってたんだけど、その日はたまたま裏門が閉まっててしょうがなくグラウンドの方に回って帰ったことがあって——」
“グラウンド”という単語にドキッとする。
「校舎が施錠されるような遅い時間だったんだけど、陸上部の部員が走ってたんだ。」
「陸上部の部員…」
由夏は核心に迫る言葉に胸を騒つかせなが、つぶやいた。
圭吾は頷いた。
「一年の頃の藤澤。」
「うそ…」
「だから嘘じゃねえって。」

(だって、知らない。)
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