潮風、駆ける、サボタージュ
「あの日、高橋が私を助け出してくれたんだよ。」
由夏は圭吾の方を向いて言った。
「なんだよ改まって。」
「だって本当のことだから。あの日の私には高橋の金の髪が太陽みたいに見えたんだよ。あの日から独りじゃないって思えた。砂埃で霞んでた視界にびゅうって風が吹いたみたいに…あの日から走ることがまたキラキラし始めた。」
由夏は真剣な表情(かお)で言った。
「なんだ、そんなこと。」
圭吾の言葉に由夏は少し落胆した。
「高橋にとっては“そんなこと”かもしれないけど…」
「俺が藤澤にもらってたものとは比べものにならないって意味。二年間。」
その二年間があの日の由夏の背中を押した。
「私、きっとまた走るのが嫌になる時期が来たり、いつかはやめるんだろうなって考えてるんだけど…なんかね、もうあの時みたいには苦しくならない気がする。」
「………。」
圭吾は黙って聞いている。
「高橋がいるから。」
「そうだな、俺も多分そう。むこうで凹むこともあるだろうけど。」
「高橋が落ち込んでるところはやっぱりいまだに想像できないんだけど。」
「異国の地で孤独に泣き暮らすかも。」
それを聞いた由夏は、はははと声を出して笑った。
「俺ってこれでも繊細なんですけど?」
「ごめんごめん、でも、もし高橋が苦しかったり凹んだ時は、私が励ましに行くよ。」
「走って?」
「そう、走ってアメリカまで。」
由夏は笑って言った。
「藤澤、海の上って走れないって知ってるか?」
「もー!」
由夏と圭吾はキラキラと光る波を見ながら笑い合った。


fin.
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