落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
第六章 賢者の祈り
話が纏まると、私とダルシアは店へと帰路に就く。夕飯を一緒に食べると約束したヴィーも一緒だ。
 夕暮れのドーランの町は、いつもと同じく騒がしい。表通りの市を抜け、慣れ親しんだ小道を行くと、細い坂に入る。もう少し近付いたら、足音を聞いてホミとリンレンが迎えに出てくるはず……だけど、今日はなぜかどちらの姿も見えなかった。
「騒がしい迎えがないな?」
「ええ。薬草茶の仕込みで忙しいとか……ですかね」
「どんなに忙しくても、あいつらなら出てくるだろう。パトリシアのことが本当に好きだからな」
「ふふ。そうなら嬉しいですね……あら、誰か駆けてきますよ。えっと、あ! ブラウンさんだわ」
 私の視線の先には、慌てるクマ獣人ブラウンの姿がある。彼は陽だまり雑貨茶房の裏手から出てきて、私たちを見付けると一直線に駆け寄ってきたのだ。
「パトリシアさん! ああ、よかった、待っていたんだよ」
「どうしたんですか? ホミとリンレンはどこに?」
「いやさ、さっきリンレンがうちにやってきてね。ホミを探しにいくから、店番を頼むと言われたんだ」
「ホミを探しにって……帰ってこないのですか?」
 薬草茶の材料が足りなくなったから取りにいき、夢中になって採取していたら時間を忘れた、とか? ホミならその可能性がなくはないわ。  
 でも、そんなことでリンレンが慌てるわけはない。首を傾げる私に、ブラウンは早口で捲し立てた。
「マゴットさんの悪阻が酷くてさ、薬草アロイーズを探しに行ったようだ。でも、かなり長い時間、帰ってこないらしい。だから、迷いの森の奥まで入った可能性もあると、トネリさんとリンレンが一緒に探しに行ったんだ」
「森の奥まで?」
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