瞳の中の住人
 兄妹が読んでいる本は図書館で借りたものではなく、わざわざ購入したものだった。

 兄の読んだ本が妹に渡り、返却されることが多かった。出演するのは、いつも同じ作家の本で、パソコンで検索すると著作は両手両足の指の本数を優にこえていた。

 綾音が近所の書店で本を購入するのなら、是がひにでもその現場に立ち会いたい。

 けれどそんな確率は天文学的にかんがえても低く、なかなか出くわさないだろう。だからといって彼女の行動を監視するような行為、いわゆるストーキングは出だしから失敗している。

 綾音が着ていた高校の制服を思い出し、下校時間にだいたいの見当をつけた。

 その時間、綾音が行きやすい書店を想定し、直接出向くことにした。店先で二時間ほどぶらつく日が三日ほどすぎた。

 僕はどこからどう見ても暇な大学生で、ときどき通行人の視線にいたたまれなさを覚えた。明日からはもうやめておこうか、とあきらめはじめたとき、女子高生然とした綾音が目のまえを通りすぎた。
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