瞳の中の住人
「まだよ。十二月だから」

 十二月、とおうむ返しにつぶやき、あることを思い出した。

 いつの夢だったか、木崎翼がアルバイト代をためて、女性もののネックレスを買おうと予定をたてている内容があった。

 スマートフォンに入力した誕生日スタンプを確認し、『彼』にも特別なだれかがいるのだとわかった。十二月二十六日生まれのだれかに、『彼』は十数万円のプレゼントを用意するつもりでいた。

 試しに誕生日の日付けを二十六日かどうか尋ねてみた。綾音は驚き、正解を出した。

 思えば『彼』の、綾音にたいする視線はいつも愛情に満ちていた。『彼』がだれに言い寄られても決してイエスを出さなかったのは、綾音を愛していたからだ。

 いくら愛しあっていたとしても、兄妹間ではむすばれない。それでも、翼は妹を想っていたし、妹も同じように兄を……。

 翼の秘めた想いに気づき、僕は愕然となった。

 それじゃあ、僕が今、綾音にいだいているこの気もちは翼の記憶によるもの、つまり洗脳というものではないだろうか?

 妹を愛おしく想う翼の視線を介して、僕は綾音を知った。実際の彼女に興味を引かれ、会ってみたくなった。
< 47 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop