瞳の中の住人
 自分の感情が、まるで誘導されてうまれたような気がして、軽く混乱を覚えた。

 僕は僕自身の気もちがわからない。本心から綾音を好きなのかどうか、自信がなくなった。

 綾音に眼のことを話そうと思った。

 さすがに、夢で『彼』の私生活をのぞき見したことは明かせなかったが、『彼』の眼球を譲り受けたのが僕だと知れば、彼女はどんな反応をするだろう?

 綾音が僕を白石刀哉ではなく、木崎翼の亡霊と認識するようなら、彼女から離れようと思った。

 彼女に僕自身を見てほしいという願いがあった。これも『彼』に誘導されてうまれた想いかもしれないのだが。

 綾音は僕におこった事故の顛末を聞いて、顔を青ざめていた。

 僕の両目が兄のものであると知り、僕のまえから立ち去った。おおいに動揺し、丸い瞳には涙の膜がはっていた。

 それから綾音に会えない日々がつづいた。
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