裏側の恋人たち
「葬式が終わった後も義妹はメンタルがやられて復調できなかった。一人がさみしい家族が欲しいと言うんだ。だったら自分で結婚相手を探して家庭を作れといったら俺と結婚したいと言い出した。当時、体調が悪いとか相続の相談に乗って欲しいと度々呼び出されたりしていて少なからずアイツに同情はしていた。ーーーそれでこの婚姻届なんだけど。
アイツが言ったんだ。ここに名前を書いてくれるだけでいいと。保証人の欄には既に親父と義母の名前が記入されていた。これはもう正式なものとしての扱いはできない。だからお互い戸籍に傷はつかないし自分も妻気取りをするつもりはない。ただ自分たちが家族だったという思い出の何かが欲しいだけだとーーー」
そこまで言って一度話を止め瑞紀は私の顔を見た。
「俺は結婚なんてする気はなかった。結婚願望ってものもなかったし、結婚したい相手もいなかった。生涯一緒にいたいと思う相手に出会わなかったっていうのか探さなかったっていうのか、それは自分でもわからない。ただ仕事が楽しかったし、纏わり付いてくる女とか煩わしかった。だからだな、深く考えもせずにこの婚姻届に自分の名前を書いてしまった。ーーーでもそれからアイツは立ち直っていったんだ。あの店舗兼住宅はアイツに譲るつもりだったけれど、自分で興した仕事がしたいからといってアイツは突然ヨーロッパに修行しに行ってしまった。一等地を空き家にするわけにもいかず、自宅以外の部分を改装して自分の店を、『リンフレスカンテ』を作ったんだ。それからーーーー」
『リンフレスカンテ』を開業する前に既に瑞紀は都内にビアレストランを開業させていた。経営状態はよく2店舗目の『リンフレスカンテ』も成功させ、そこから更に次々と成功を収めている。
今は私もその背後に頑張る甥を応援する伯父や伯母などの存在もあったのも知っている。
「婚姻届を書いたいきさつはわかった。でも、義妹さんは戻ってきたし、瑞紀と結婚したいって言っているんでしょ」
なら私をこれ以上巻き込むな。
「さっきも言ったけど、『リンフレスカンテ』の3階の住居は親父たちの自宅だった。だから当然アイツの部屋もあった。あの土地、建物は俺のものではあるけれど、あの自宅の中は俺のものじゃないんだ。アイツは勝手にいなくなって連絡もつかない。けれど処分することも出来ない。俺は管理のためにあそこで寝泊まりすることにしてただけであそこを自分ちだと思ったこともない。階段下りるだけだから通勤は便利だったな。
親父が使っていた書斎にソファーベッドを入れて寝場所は作ったけれど、アイツが戻ってきたら家財道具をどうするのか話し合うつもりだった。当然俺にアイツと結婚するという意思はない」
瑞紀がまた私の手を握った。
手首を捻挫したことを忘れていて「うっっ」と呻いたから心の中で少し笑ってしまった。
さすがにここまで言われたら私にもわかる。
瑞紀も私のことが好きなんだって。
アイツが言ったんだ。ここに名前を書いてくれるだけでいいと。保証人の欄には既に親父と義母の名前が記入されていた。これはもう正式なものとしての扱いはできない。だからお互い戸籍に傷はつかないし自分も妻気取りをするつもりはない。ただ自分たちが家族だったという思い出の何かが欲しいだけだとーーー」
そこまで言って一度話を止め瑞紀は私の顔を見た。
「俺は結婚なんてする気はなかった。結婚願望ってものもなかったし、結婚したい相手もいなかった。生涯一緒にいたいと思う相手に出会わなかったっていうのか探さなかったっていうのか、それは自分でもわからない。ただ仕事が楽しかったし、纏わり付いてくる女とか煩わしかった。だからだな、深く考えもせずにこの婚姻届に自分の名前を書いてしまった。ーーーでもそれからアイツは立ち直っていったんだ。あの店舗兼住宅はアイツに譲るつもりだったけれど、自分で興した仕事がしたいからといってアイツは突然ヨーロッパに修行しに行ってしまった。一等地を空き家にするわけにもいかず、自宅以外の部分を改装して自分の店を、『リンフレスカンテ』を作ったんだ。それからーーーー」
『リンフレスカンテ』を開業する前に既に瑞紀は都内にビアレストランを開業させていた。経営状態はよく2店舗目の『リンフレスカンテ』も成功させ、そこから更に次々と成功を収めている。
今は私もその背後に頑張る甥を応援する伯父や伯母などの存在もあったのも知っている。
「婚姻届を書いたいきさつはわかった。でも、義妹さんは戻ってきたし、瑞紀と結婚したいって言っているんでしょ」
なら私をこれ以上巻き込むな。
「さっきも言ったけど、『リンフレスカンテ』の3階の住居は親父たちの自宅だった。だから当然アイツの部屋もあった。あの土地、建物は俺のものではあるけれど、あの自宅の中は俺のものじゃないんだ。アイツは勝手にいなくなって連絡もつかない。けれど処分することも出来ない。俺は管理のためにあそこで寝泊まりすることにしてただけであそこを自分ちだと思ったこともない。階段下りるだけだから通勤は便利だったな。
親父が使っていた書斎にソファーベッドを入れて寝場所は作ったけれど、アイツが戻ってきたら家財道具をどうするのか話し合うつもりだった。当然俺にアイツと結婚するという意思はない」
瑞紀がまた私の手を握った。
手首を捻挫したことを忘れていて「うっっ」と呻いたから心の中で少し笑ってしまった。
さすがにここまで言われたら私にもわかる。
瑞紀も私のことが好きなんだって。