裏側の恋人たち
「アイツは親父の再婚相手の連れ子。俺の3つ下だから響のひとつ上だな。義妹といっていいのかよくわからない。親父とその女性は籍を入れなかったしその連れ子と養子縁組もしなかったから」
知らなかった話に首を傾げた。
私が瑞紀のことを知っているのは瑞紀が高校を卒業するまでだ。
一人っ子だと聞いていたしその頃に妹の話は出たことはなかったからお父さんが再婚したのはいつだろう。
大学入学を機に瑞紀もうちの兄も家を出て行ったから私と瑞紀の接点はなくなった。
「お袋がいなかったのは響も知っているだろ。親父が女性を紹介したいと連れてきたのは俺が大学に入ってからだった。俺は実家を出てたし大学卒業までの学費と生活費を援助してくれるなら父親は好きに暮らせばいいと思った」
それって瑞紀が家を出るまで待っていたように聞こえる。
確かに男二人の生活の中に”新しいお母さんと妹”だという存在がきたら男子高校生の心情は微妙だろうけど。しかも受験もあったし。
「『リンフレスカンテ』は俺の店だけど、あの建物自体は俺が建てたわけじゃないんだ。親父が女性とその子どもと暮らすために建てたもので、以前あそこの1階は義母の営む花屋だった。建物の権利は親父で義母は店子。あの3階の住居は親父と義母とその娘が家族として暮らしていた場所。
ーーー二人が籍を入れなかったのと連れ子と親父が養子縁組をしなかった理由っていうのがお互いの財産問題だった」
瑞紀のお母さんは自分の両親が亡くなったときにかなりの資産を相続していたそうだ。株式や土地、建物など。そしてそのお母さん自身も輸入食材の店を経営していた実業家だった。
それからお母さんが亡くなりそれを相続したのは夫である会社員のお父さんと瑞紀。
お母さんの兄や姉などの親戚たちはお父さんに渡った遺産の行く末を心配した。
お父さんが再婚して新しい家族を作った場合、万が一のことがあればお母さんの遺産がそちらにも渡ってしまうことを嫌がったのだ。勿論遺言書などでうまくやりようはあっただろうけれど、感情は法律で割り切れるものではない。
お母さんのお店はお母さんの右腕だった有能な従業員に任せその後その人に譲ったそうだ。
瑞紀が思うより伯父や伯母たちは妹が頑張って築いた財産が一部とはいえ赤の他人の手に渡るのは我慢ができないということだった。
そんな経緯がありお父さんは女性と籍を入れなかったのだとか。
女性の方もきちんとした資産がありお金に困っていなかったということも大きかった。
内縁関係となることから事前に二人とも遺言書を作成して同居をはじめたという念の入れようだったというからしっかりしている。
「そんな関係で始まった三人だったけど、家族としては成り立っていたみたいだった。俺は年に一度ほどしか顔を出さなかったしあの三人の中に入りたいとは思わなかった。それから7年ほどして父と義母が事故に遭ったと連絡が入った。急いだけれど、親父の看取りは出来なかった。義母の方はそれから3週間くらい頑張ってくれた。だけど、義妹の心は限界になってしまった。義母の親兄弟は既に故人で義妹も一人っ子。実の父親も故人だったからアイツは天涯孤独になってしまったと半狂乱だったーーー」
瑞紀のお父さんが亡くなっていたことは知っていたけれど、そんなことがあったとは。
しかもまだ話は続いている。