裏側の恋人たち


あれから1年。
私は相変わらずだ。

あの時クソに肉食だと言われてからなぜか院内で私は肉食扱いされていた。
いや、彼にさえ勘違いされなければ、噂なんて別にどうでもいいんだけど。

確かに、過去にイケメン検査技師と付き合ったことはある。インドア派の彼を無理矢理外に連れ出していたことも認める。(それが原因で別れた)
その後、虫垂炎で緊急入院してきた瑞紀に一目惚れして積極的にぐいぐいいったのも私なのだから間違ってはいない。

でも瑞紀に一目惚れという言い方は間違っている。
だって瑞紀と私は初対面じゃなかったから。

鳥越瑞紀は兄の高校の同級生だ。

兄と同じ部活に所属していて何度か顔を合わせていて格好いい人だなあと思っていたのだ。
今回、11年ぶりに再会して私の心に火が着いた。
独身なのは初めにカルテで確認済み。

弱った身体と心につけこもうと積極的に動きました。頑張りました。

でも、鳥越瑞紀という男はそう簡単な男じゃなかった。
近くにいることは許してくれるけど、ただそれだけ。
そう、本当にそれだけなのだ。

再会して1年。この中途半端な状態が辛くて近頃よくあのクソ医者に言われたことを思い出す。

『佐脇みたいな肉食女、どうせやり捨てられて終わりだ』

やり捨てか。
もういっそのことやり捨てでもいいからやってくれないかな。そしたら離れられるのに。

そんな感情を持て余すようになっていた。



瑞紀はカフェ、居酒屋、ダイニングバー、シックなイタリアンからファミレスっぽいお店まで色々な形態の店を何店舗も持っている若いのにやり手飲食店経営者だ。

仕事熱心な瑞紀は毎日のようにどこかの店に顔を出している。
時間が合えばだけど、瑞紀のそれに私もついていかせてもらえるようになった。

瑞紀はお店を回って帳簿をチェックしたり、スタッフに困っていることがないか聞いたり、そこの店内の客に混じって飲食して行く。サービスのチェックだったりお客さんの雰囲気を窺っているんだと思う。
そして市場調査として他店にも行く。
その時役に立つのが私の存在だ。

男ひとりでは入りにくいお店も、大皿料理のお店も私が一緒にいれば大丈夫。
ちょっとした話し相手にもなる。しかも、イケメンの瑞紀の隣に私という女がいれば逆ナンも防げるというお得付き。

そんな風に説得したら、隣に置いてもらえるようになった。




カフェレストラン「リンフレスカンテ」の2階が瑞紀の事務所で3階が自宅だ。

仕事が終わったあとや休日に「リンフレスカンテ」に行くとどこからともなく瑞紀が現れて私を伴って何れかの店舗に行くという流れである。
私が顔を出す時間はまちまち。
日勤の終わりの夕方、研修会後の夜、夜勤の仮眠後の昼のこともあればゆっくり睡眠をとったあとの午後ってことも。

行き先は瑞紀のお店だったりそうでなかったり。
私たちに特別な決まりごとはなかった。








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