裏側の恋人たち
その後もなぜか布川先生が女性といる場面に出くわすことになった。

例えば、深夜の非常階段。

郊外のショッピングセンター。

繁華街のホテル街の近く。

因みに全部連れていた女性は違う。

好青年みたいな顔をしてくそ男だったんだなと思ったのだけど、他人の下半身事情に興味のなかった私はそのことを病院の人間に話すことはなかった。

それから程なくして新年度になりうちの病院にも多くの初々しい新人ナースが新戦力として加わり、それが嵐を巻き起こす事にーーー



季節は夏を迎え、小児科病棟に入った新人ナースと布川先生がお付き合いをしているという噂を耳にするようになった。

その後、
噂されていた本人、子ウサギみたいな可愛らしい新人ナースが更衣室で布川先生とのお付き合いを認める発言をしたことから噂話が一気に病院中に広がってしまった。

そこから嵐が始まる。

ベテランナースの北山さんの機嫌が悪くなり、日々の病棟業務に支障が出始めた。
病棟に布川先生が現れると厳しい視線を向けるし、先生がいてもいなくても常にイライラしているし、新人ナースにアタリが強い。

そろそろ科長がひと言彼女に言った方がいいんじゃないかと思った頃、北山さんが職員食堂で噂の小児科ナースと仲良くランチをとっていた布川先生をひっぱたくという事件が起きた。

その後も修羅場は続く。

布川先生が外来診療の担当日、女性患者が診察室に乗り込んできて騒いだのだ。
「大介は私のものよ」なんて。

わたしはたまたま用事で外来にいたから見てしまった。
ーーー彼女はあの時暗がりでキスしていた女性ではない。
確か、繁華街のホテルが建ち並ぶあたりで布川先生と寄り添って歩いていた女性だ。

因みに、非常階段で抱き合っているところを見た時のお相手は彼氏がいる耳鼻科病棟の主任さんで、郊外のショッピングセンターで見たのは女子大生みたいな子だった。  

それらと全部付き合っているとしたら、最低でも女性が5人はいるのだ。
院内でバレたのは3人だけだけど。

まぁでも、新人ナースはショックで病院辞めちゃうし、職員食堂なんて魔窟みたいなところで騒ぎを起こした北山さんも居辛くなったらしく、病棟から福祉施設に異動になった。

で、元凶の布川先生は…院長だけでなく医局の教授に大目玉をくらい所属していた大学病院に一時戻されたのだけど、すぐに異動になった。過疎地域に。

そこでお年寄りに囲まれ穏やかに暮らすか、女性を1人に絞って連れていけばいいと思う。

暴れん坊の下半身を何とかしないと都会には戻してもらえないのではないかな。



私の悲劇は布川先生の退職の日、偶然医局前の廊下で先生と出会ってしまったことだった。

何を考えていたのか知らないが憎々しい視線を向けて近付いてきて言ったのだ。

「お前が黙ってたらバレなかったのに」

「私は何も言ってませんけど」

「女を連れている時に出会ったのは佐脇だけだ。お前だって昼も夜もいつも違う男を連れ歩いていたよな。他人のことは言えないくせに」

何言ってんだ、コイツ。
全く勝手なことを言う男だ。
呆れてものが言えないとはこのこと。

言い返そうとして、やめた。
こんなクソに何を言ってもムダだ。

冷たい視線を向けてやると
「佐脇みたいな肉食女、どうせやり捨てられて終わりだ」
と信じられない暴言を吐いて立ち去った。

くそはどこまでもクソだ。



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