あのねあのね、



しばらくしてインターホンが鳴り先生が到着すると、私は辿々しく部屋に案内する。


最初の挨拶を含めると2回目の訪問だった。なので勉強を教えてもらうのは今日が初めてである。


「なちさん、改めて今日からよろしくね」


そう優しい口調で話す宮下さんは、母の知人の女性だという。普段は児童養護施設で働いているらしい。


お母さんが私に勉強をさせたいわけじゃないことはわかっていた。


ただ……学校から、私が黒霧生と一緒に駅のホームにいたことに対して連絡が入り、家でも言い聞かせてほしい、と言われていたみたいだったから。


それできっと心配したお母さんは、物腰が柔らかいこの女性に、私のことを見ててもらいたいんだと思う。もしくは、夕凪くんのことを聞き出してほしくて頼んだのかもしれない。


そうじゃなかったら、わざわざメンタルケアもできるという宮下さんを選ぶ必要がないから……。


両親はまだ仕事から帰って来ない。今日もいつものように忙しいのだろう。


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