あのねあのね、



「なちさん」


一通りの課題が終わり質問の時間に入ると、宮下さんは真っ直ぐに私と向き合う。
ついにきた……と思った。


夕凪くんのことを聞かれるかもしれない。うまく話せるか一気に不安になってくる。


喋りが得意じゃない上に、夕凪くんとの関係を聞かれて、なんと答えるのが正解なのかわからない。


私にとって夕凪くんは憧れで、すごい感謝している人で、既にたった一人のかけがえのない人にもなっていた。
けどそれは私の一方的な感情で、夕凪くんにとっては全然違うから。


夕凪くんはただ、言葉や人付き合いの不慣れな私の面倒を見てくれている。本当はすごく優しい人だと、そう……そう伝えればいいのかもしれない……


「本当は気づいてるわよね。勉強を教えるために来たんじゃないこと……だって、なちさんにおばさんが教えられること、ほとんどないんだもの」


そう言って宮下さんはワハハっと笑った。たぶん私の緊張に気づいて、解こうとしてくれているんだ。


おかげで言葉にしようと頭で考えていたことまで、全て吹っ飛んでしまった。


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