雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
早速やらかしたことに反省していると、頭にヘルメットを被せられる。
「着け方もわかんねぇのかよ」
……どうやら怜央はヘルメットを没収したわけではなく、被せるために手に取ったらしい。
確かにバイクに乗るのは初めてだと言ったけれど、ヘルメットの着け方くらいはわかる。
私がそう口にする前に、カチャッとバックルの締まる音がした。
そして、視線を上げた怜央と目が合う。
こんなに至近距離で異性の顔を見るなんて初めてのことで、鼓動がドクンと跳ねた。
「あ、ありがとう」
「ん、じゃあ行くぞ」
平静を装うのに必死な私とは違い、いつもと変わらない様子の怜央。
彼にとってこんな距離、意識するほどのものでもないのだろう。
私がしたことのない、キスやもっとその先の行為もきっと経験済みなんだろうな。
「おい、ぼーっとしてるとマジで落ちるぞ」
後ろに乗った私に怜央が言う。
これは脅しでもなんでもなくて、本気の注意。
「ご、ごめん」
謝る私に「ちゃんと掴まってろ」そう言って怜央は私の手を引っ張った。
そして、自分の腰のあたりを掴むよう指示をする。
私は素直にその場所をぎゅっと握った。
「離すなよ」という一言と共に走り出したバイク。
自転車では感じることのできない風で、私は熱くなった頬を冷ました。