恋する辺境伯
 捕まえた男たちの尋問は夜通し行われた。

 賊の男ふたりは同じ主張だった。
「俺たちは何も知らない。あの店からライラって名前の銀髪の娘をさらって来いって依頼されただけだ」と。

 パール服飾店の店主は、最初のうちは何も知らない、試着室の鏡は緊急時の避難経路としてああいう仕掛けを施しただけだと主張していたが、本当のことを言わないと指を切り落とすと脅したら簡単に口を割った。
「左頬にほくろのある男から金貨を積まれて依頼されたんだ。最近、店の売り上げが落ち込んでいたから思わず飛びついた。うまくいったらほとぼりが冷めた頃に王都に店を持たせてやるって言われたんだよ」
 ほくろの男の素性を知っているかという質問にもあっさりと、グラーツィ伯爵家の関係者だと聞いていると白状した。
 ライラ様はこの婚約に乗り気ではないのに、このままでは1年後に結婚させられてしまう。そこで一芝居うってトラブルを起こし婚約を白紙に戻したい。協力してもらえないだろうかと言われたらしい。

 肝心のほくろの男は頑として口を割らなかった。
 店主が洗いざらい喋ったからおまえがグラーツィ伯爵家とかかわりがあることは判明していると告げた時だけ、ほんの少し目が揺れたようだ。

 残念だったのは、ライラ様のことだ。
 彼女自身も今回の茶番劇に加担していたということだろう。
 それがまさか、街に入った途端騎馬隊に護衛されてまっすぐモンザーク辺境伯家に連れて行かれるとは思っておらず、馬車から降りたくないとゴネたと考えるのが妥当だ。
 マリエル様もそのことに気づいたから、あの時無理に彼女に会おうとせずにすぐに姿を消したのだ。

 文通相手の「マリエル」が男であることにもとっくに気づいていたに違いない。
 グラーツィ伯爵家にどう抗議しようか。
 明け方にようやくベッドに入ったが、悔しすぎて全く寝付けなかった。

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