燃ゆる想いを 箏の調べに ~あやかし狐の恋の手ほどき~
 廊下の奥に向かって声を掛ければ「はいっ」
と、元気な返事と共に、狐月と延珠が暖簾の
隙間から顔を覗かせる。その二人の足元から
ひょっこり顔を出した小雨は、トコトコと玄
関にやって来た。

 「なんじゃ、またみたらし団子か。小娘で
なくとも飽き飽きして文句が出るわい」

 「あんだとぉ?別に無理に喰うこたぁねぇ
ぜ。嫌なら串でもしゃぶってな」

 口を尖らせて言った雷光に、古都里は慌て
て小雨を抱き上げる。このまま放っておけば
喧嘩勃発だ。

 「なんじゃとぉ?この色ボケ鬼が」

 「いいやがったな!すねこすりならぬゴマ
こすりめ!古都里ちゃんに甘えてんじゃねぇ」

 「もうっ、二人ともやめましょうよ。いつ
までも玄関に突っ立ってても何ですし、早く
中に入って曲目を決めましょう!」

 睨み合う二人の間に割って入って古都里が
窘めると、傍にいた飛炎が、ぽん、と雷光の
肩を叩いた。

 「彼女の言う通りですよ。『一寸の光陰軽
ろんずべからず』と云うでしょう。こんな所
で油を売っていても仕方ありません。さっさ
と上がりましょう」

 言って飛炎が草履を脱いだ、その時だった。

 「たのもうっ!!」

 玄関の格子戸の向こうから突然、そんな声
が聞こえてきて一同は顔を見合わせた。それ
ぞれに怪訝な顔をしてガラスの格子戸に映る
影を見やれば、そこには背中に羽らしきもの
を生やした影がひとつ。


――人ではない『何か』がそこに立っている。


 「たのもうだぁ?ここは道場じゃねぇぞ?」

 「嫌な予感しかしませんね。ここは聞こえ
なかった体で、奥に上がってしまいましょう」

 あらかさまに眉間に皺を寄せた雷光と、顳
に手をあてて首を振る飛炎に、右京がやれや
れと肩を竦める。

 「今日も賑やかな一日になりそうだね」

 安心させるように古都里の頭に、ぽん、と
掌を載せるので、古都里は「そうですね」と
破願したのだった。



                 =完=



***この物語を読了くださいまして、誠に
ありがとうございました。読者様とのご縁を
いただけましたこと、心より感謝致します。
            橘 弥久莉***
< 122 / 122 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

~Last  Love~  あなたの心に触れるまで

総文字数/31,599

恋愛(純愛)29ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
通り過ぎた人生があるから、 『いま』がある一一。 溺愛していた息子の自立。 初カレとの運命的な再会。 これから先の人生をもっと幸せ に生きたいと思うけれど……。 母としての自分を見つめ、 女としての自分を見つける アラフィフシングルマザーの 恋物語。 ※第七回「アナザーベリーズ」 「編集部からみなさんへ紹介 したい!ピックアップ作品」 に選出されました! 温かな応援、ありがとう ございました(*・ω・)*_ _)ペコリ ☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜ <登場人物紹介> ・小戸森 凪紗(こともり なぎさ) 在宅で翻訳の仕事をするシングル マザー。一人息子が自立した寂しさ から『空の巣症候群』気味に。 ・本宮 嘉一(もとみや かいち) 『もとみや接骨院』の院長。 学生時代は真面目で口下手だったが、 現在は主婦に大人気のイケオジ院長。 ・和泉 果歩(いずみ かほ) 凪紗の中学からの親友。企業の健康 相談室で心理カウンセラーをしている。 ・小戸森 史也(こともり ふみや) 凪紗の一人息子。 大学進学を機に親離れしたが……。 ※この物語はフィクションです。 ※表紙画像はミカスケ様のフリー イラストからお借りしています。
さつきの花が咲く夜に

総文字数/127,058

恋愛(純愛)106ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 「出会いは必然。別れも必然。 だから、何げない出会いを大切にね」  やわらかな陽だまりの中で、母がふわり と笑う。私は小さく頷くと、うっすらと痣の 残る母の手を包み込んだ。 ◇◇◇◇◇ ※エブリスタ「新作セレクション」選出作品 ☆2022.7.28☆ ※この物語はフィクションです。 ※表紙の画像はミカスケ様のフリーイラスト からお借りしています。 ※作中の画像はフリー画像サイトpixabayから お借りしています。 ※作中に病気に関する描写がありますが、 あくまで作者の経験と主観によるものです。 ===== 参考文献 ・Newtonライト3.0 相対性理論 ゼロからわかる相対性理論入門書
表紙を見る 表紙を閉じる
 天満月を背に、少年が振り返る。  白いシャツの眩しさに、 向けられる笑みのやさしさに、 とくりと鼓動が鳴ってしまう。  「子ども扱いすんな」  少し低くなったその声にまた、 いままで知らなかった彼を見つける。  心が色づき始めるのを意識しながら、 私は姉の笑みを向けた。 *……………*……………* 《登場人物》 ・高山 千沙(たかやま ちさ) 藤ノ森英明学園の世界史の教師。父親 は学園の理事長であり、千沙は学園の 後継ぎとして結婚相手を決められてい る。セルフフレームのだて眼鏡に、 七三分けの前髪がトレードマーク。 ・蘇芳 侑久(すおう たすく) 千沙の幼馴染みであり、学園きっての 秀才。T大、宇宙工学科への推薦入学 が決まっており、将来は宇宙航空開発 に携わりたいという夢がある。 ・高山 智花(たかやま ともか) 千沙の妹。侑久とは幼馴染みであり、 同級生。千里とは正反対の容姿と性格 を持ち、周囲からは侑久との恋仲を噂 されている。 ・御堂 弘光(みどう ひろみつ) 藤ノ森英明学園の数学教師で、生徒か ら「死神博士」と呼ばれている。千沙 との結婚に前向きで、積極的に距離を 縮めようとしている。 ***** ・折原 蛍里 (おりはら ほとり) サカキグループの経理部で働いている。 読書好きが高じてアマチュア作家であ る詩乃守人の小説サイトに出会う。が、 のちに榊一久がその小説サイトの管理 人であることを知り、芽生えていた 恋心を断ち切る。その後、作家となっ た一久と再会を果たして……。 ・榊 一久 (さかき かずひさ) サカキグループの後取りであり、社長、 榊幸四郎の養子。専務職に就いていた が、政略結婚の相手である秋元紫月と の婚約解消を機に専務の職を辞する。 その後、詩乃守人として作家デビュー を果たし蛍里と再会。 ※この物語はフィクションです。 ※表紙画像はM・H様からお借りした ものを、本人から了承を得て使用して います。 ※この物語は「恋に焦がれて鳴く蝉よ りも」の番外編です。そのまま読んで もお楽しみいただけますが、本編をお 読みいただいた方が、より、楽しめる かと思います。   ☆レビュー投稿、ありがとうござい ました!! メイコ様、Maryan様

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop