【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
 騎士は、ラルカの歩調に合わせてゆっくりと歩き、時折振り返りながらニコリと微笑む。気遣いができる上、物腰が柔らかい。
 エルミラにも近衛騎士が付いているが、彼等はいかめしく、とっつきづらい印象だ。もちろん、護衛だから、ある程度の威厳は必要だが、常にそんな感じでは一緒にいる人間は疲れてしまう。
 その点、今一緒にいる騎士は、珍しいタイプだ。


(……この人、きっと物凄くモテますわね)


 ラルカ自身は興味がないため詳しくないが、女性陣が彼を放っておく筈はない。おそらくだが、侍女たちが『カッコいい』と騒いでいた男性の一人だろう。彼を執務室に連れ帰ったら、皆に喜ばれるかもしれない――――そんなことを考えながら、ラルカは微笑む。


「ラルカ嬢ですよね。エルミラ殿下の女官でいらっしゃる」

「まぁ……! わたくしをご存知なのですか?」

「もちろん。まだ若いのにとても優秀だとうかがい、お話ししてみたかったのです。あなたの美貌は騎士たちの間でも有名ですし。主人は異なりますが、我々は同じ王族に仕える者同士。今後も仲良くしていただければ、と」


 人懐っこい笑みを浮かべつつ、騎士はそっと首を傾げる。ラルカは困ったように微笑んだ。


「ありがとうございます。そんな風に言っていただけて、とても光栄ですわ。
ただ、事情があって今は女官ではなく『侍女』ということになっているんです。仕事の内容はこれまでとあまり変わりないんですけどね」


 働きぶりを認めてもらえるのは嬉しい限りだが、メイシュのことがある以上、『女官』だと認識されたまなのはよろしくない。後々面倒なことになりかねないからだ。
 訂正を入れつつ、ラルカはそっと息を吐く。


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