君がくれた幸せ
 街外れの大きな屋敷。
 そこに一人の大男が遣えていた。

 彼の名はバラド。
 今は自分よりも若い主人の右腕的存在だが、彼は歳若い頃からの屋敷遣え。

 背も高く体格も良く、体力も腕力もあり、無口で無表情。

 それでも若主人を助け忠実に仕事をこなそうとする彼を、屋敷の者たちは感心して見守っていた。

 これは、そんな彼の過去の話から始まる。



 彼は生まれてすぐに捨てられた身だったという。

 孤児院に身を寄せて数年後、無実の罪を着せられ追い出される。
 ある夫婦に拾われたあとは奴隷同然の扱いで一日中休む間もなく働き、そしてそのうち様々な場所を転々とする生活を送った。

 そして少年期から青年期に変わるほどの歳頃になり、彼がある旅の見世物小屋に入っていた頃のこと。


「…ねえ」

 皆寝静まった夜。
 魔女のような姿をした同じ歳頃の若い娘が小屋の外の、彼のいる檻越しに声を掛けてくる。

「バラド。あなたって、本当に野獣の血を引いているの?」

 彼女は無邪気に笑う。

 こんなにも気軽に自分に話し掛けてきた者など今までいない。
 自分は年若くも怪力で大柄で、“野獣の子”だといわれてこの見世物小屋に拾われた。

 半身は粗末な毛皮で覆い隠し、見えている色素の少し濃い肌は鞭跡で傷だらけ。
 ほとんどの者は自分を恐れるというのに。

「…だったらどうした」

 彼は精気を失いボソボソと低い小さな声でそう答えると、娘はまた明るく笑う。

「うふふ、嘘でしょう?私の得意な占いで見たのよ、あなたのことを」

 彼は興味がないというように娘から顔を背けるが、彼女は構わず続けた。
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