こじれた俺の愛し方
「あの、どうかしました…?」

 彼女が俺の顔を心配げに少し覗き込む。

「…いや。この辺は夜、あまり治安が良くないから気をつけたほうがいい」

 俺は急いでそう返した。

 唐突過ぎただろうか?
 しかし本当に考えていたことなんて言えるはずはない。

「あ、ありがとうございます…!」

 彼女は俺の無理やりな切り替えに、全く気が付かなかったらしい。
 はにかんだようにして笑っている。

 なるほど、彼女はかなり単純なんだろう。
 俺のことも、何を考えているのか何も疑いもしないで…

「…あっ、アルバイト行かなくちゃ…!すみません、あの…じゃあまた!」

 そう言ってまだ名前を知らない俺に一礼すると、彼女は急いで行ってしまった。


 俺はまたも一人、彼女が俺に捕らわれているさまを想像する。

 それでも、想像の彼女が俺に笑ってくれることはない。
 その日は俺に抱き締められながら嫌がり泣き続ける姿の、俺の想像の中の彼女だった。

 どんなに毎日毎日彼女を想像しても、たまに向かう彼女のバイト先で俺に笑顔を向ける彼女を見ても。

 そんな思いをするくらいなら、俺は彼女をたまに見ているだけでいい…
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