優しく、そっと、抱きしめて。
 席に着くと、時間ギリギリだったためか、すぐに教授が前のドアから入ってくる。同じ列の少し離れた席に座っている宮山くんに目を向けるものの、目が合うことはなく、私はすぐさま教材のページを捲り、文字を指でなぞる。外にはちらほらと人が歩いている姿が目に入る。

 私も、この先宮山くんと並んで歩くことがあるのだろうか、そう考えて、机に顔を伏せる。この胸のときめきは何だろう。なんでこんなにも宮山くんのことばかり考えるんだろう。

 去り際に呟いた彼の言葉を思い出す。
 素っ気ない言い方。けれど優しく、心地の良い声色。やさしさの滲んだ声だ。
 そんな彼の声、言葉が耳から離れない。

 大学で初めてできた”友達”。中高生でできた友達とは違う、なんだか特別に感じる。特別だと思いたい。同じ狭い教室の中、流れでできた友達とは違う。この広い講義室、大学で出来た奇跡のようなたった一人の友達。頼りなさそうな風貌なのに、節々から感じる、男らしさ。

 ーーー友達。

 今、友達になったばかりの彼に、恋心を抱くのに、そう時間はかからなかった。
< 12 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop