実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

 実は、公爵家令嬢だった私は、生活力が皆無なのだ。前世の記憶はあるけれど、残念ながら家事は得意ではなかった。

 得意ではなかった……。
 いいえ、ごめんなさい。苦手でした。

 温かいお風呂につかって、それほど大きくない食堂のテーブルに座る。

「あの。晩ご飯はもう食べたのですか?」
「……? フィアーナ様より先に食べるはずがございません」

 そこで、ふと今までであればかけたことのない言葉をセバスチャンにかけてみる。

「一緒に食べてくれませんか?」
「フィアーナ様、それは」

 これは、もう一押しという直感。
 なんとしてもここは、一緒にご飯を食べてくれる相手を手に入れたい。

「寂しいのですが、ダメですか?」
「っ!? 滅相もございません!」
「わぁ。嬉しいわ!」

 その言葉を告げると、セバスチャンはなぜた困惑した表情になった。

「私は弁えておりますが、他の殿方にそんな態度をとることはお勧めしかねます」
「え? セバスチャンだけだわ」
「……そういうところなのですが。これが、フィアーナ様の美徳なのでしょうか」

 そんなことを言いながらも、セバスチャンは初めて私の斜め向かいに座った。
 私は、テーブルの下でガッツポーズをとる。

(一人の食事は味気ないもの。この世界に一人、取り残された気分になってしまうから)

 そんなことを思ったときに浮かんだのは、レザール様の笑顔だった。
 なぜか、この世界に一人ではない。そんな風に思えて……。

「レザールきゅん……。ふぁ!? おいし!!」

 小さくつぶやいた言葉は、口に放り込んだ極上のテリーヌにかき消された。
 やはり、万能執事は乙女ゲームのみならず、世界の正義なのだった。
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