二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「どういう意味だ……?」
「あの子は、三次元の世界で大切な人を増やしたくないと言ったのよ。これ以上、自分も、自分の周りも悲しい思いをさせるのは耐えられないからって」

 拓人は、そう言うと悲しげに笑いながら香澄の父親と祖父母の遺影に微笑みかけた。

「そんなことをあの子が思うことを、この2人は望んでないでしょうけどね」
「香澄が、そう言ったのか?お前に?」
「そうよ」
「どうして……」

 お前なんかに、と言いそうになるのはなけなしの理性で涼は耐えた。
 そのことに拓人も気付いたのだろう。

「別に、香澄がペラペラしゃべったわけじゃないわよ。私だってものすごく苦労したんだから。最初は」
「え」
「…………あんたも……気づいてたんじゃないの?あの子は、自分を主語にした考えを一切しないってこと」

 気づいた。
 だから、本音を引き出すのがとても大変だった。

「だからあの子は、他人ごとのような文章しか、最初は書けなかった。もちろん、ちゃんと商品にはできるものではあったけれど」
「他人事?」
「あの子の心の半分以上は、もうこの世界にはないの。私たちとのシナリオの仕事か……お父様とお祖母様がいる世界か……その2つにしか、今、香澄は生きていない。本当の意味で引きこもってるのよ。あの子は」
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