二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
8.彼が与えてくれた予想外の愛情
「ん……」
「香澄?目が覚めたのね……?」

 うっすらと目を開けた香澄が最初に見たのは、化粧1つしていない、けれど肌も顔立ちもとても綺麗な拓人の、汗に濡れた顔だった。
 そのまま拓人は付き添い人用の椅子に座りながら、香澄の頬にかかっていた髪の毛をはらってやった。

「先輩……どうして……」
「あんた……妊娠悪阻で倒れたって聞いたわよ!」
「妊娠……悪阻?」

 香澄は、かつてシークレットベビーの話を書こうとして調べた内容の中に、そんな単語があったことをうっすら思い出した。
 でも、それが一体どういうものなのか、具体的な情報まではもう覚えていなかった。
 結局その話は、書くことができなかったから。

「あんた……この間はどこの病院行ったのよ……!お医者さんに聞いたけど、あなたの症状は、下手したら死ぬかもしれないほど酷かったのよ!?」

 綺麗な人は、怒ると迫力が違うな、と香澄は頭の片隅で考えながら

「胃もたれだと思ったので、近所のお医者さんに行っただけです。そのまま伝えたら、そうですかと言われただけなので……」

 と、淡々と話した。
 まるで、人ごとであるかのように。
 
「それより……私はどうやってここに来たんですか?」

 香澄には、家からこの部屋までの記憶が一切無かった。

「兄貴よ」
「兄って……」

(芹沢先生のこと……?)

「あなたが倒れた時、偶然近くにいたらしくてね。そのまま兄貴がフェラーリで、この近くで最も大きい病院に連れてきたってわけ。で、そのままあなたは入院」
「そんな……私入院代なんて払えない……」

 香澄は、頭の中で今の貯金額と今度入ってくる原稿料を急いで計算した。
 原稿料は、この体調の状態ではやはり書ける本数が少なくなったこともあり、ここ数ヶ月は減収傾向。そのため、すでに生活費や諸々で貯金を崩していたのだ。

「お馬鹿さんね。何のために兄貴がいるのよ」
「え?」
「あいつはものすごい金を持ってるのよ。私よりもずっとね。あいつに払わせるに決まってるじゃない」
「それはダメです!」

 香澄は、条件反射的にそう叫んでしまった。
< 169 / 204 >

この作品をシェア

pagetop