90日のシンデレラ
「もしかして」でなくて、それは本当に「そう」。
ここまで半強制的に引っ張ってこられて、混乱しかなかった真紘はまだまだ夢をみているみたいで、現実直視がなかなか難しい。
はじめての乗るクーペの視界からみる夜の町は、真紘の知らない顔をしていた。低い位置からみる街灯は、頭上のずっと高い位置で規則正しくどこまでも続いていて、何かの儀式に向かうかのよう。
ゆっくりとオレンジ色が筋引いて後ろへ流れていく。そのオレンジの光の流れに合わせて、北峰の茶色の髪が輝いた。
ネクタイ姿のイケメンが、高級車を運転する――その姿は、とても絵になる。下手に声をかけてはいけない、そんな厳かな空気になっていた。
真紘が黙って乗っていることに、北峰は特に気にはしていない。助手席からみる北峰の横顔はただただご機嫌で、嬉しそうにハンドルを握っている。「気分がいいからドライブにいく!」といったのは嘘ではない。案件が通って、本当に北峰は嬉しいのだ。
走り出してからしばらくして、こんなことにも真紘は気がついた。
「え、もしかして、MT車?」
思わず声に出してしまう。
やたらと北峰の左手の動きが忙しいなと思ってセンターコンソールを確認したら、見慣れないシフトノブがあるではないか!
真紘はずっと内装のことなど、心内で感嘆していた。あまりはしゃぐと田舎者丸出しだから。
だが、北峰の運転がマニュアル・ドライブであることがわかったときにはもうダメであった。
素っ頓狂な真紘の声に、おかしそうに北峰が答えた。
「そうだよ。たまには動かしてやらないと」
「北峰さん、ずっとマニュアル車に乗っているのですか?」
「今は、な」
「今は?」
「これ、父親の車。本当の俺の車は父親が乗っている。しばらく交換してくれといわれて、俺のEVを持っていかれたんだ」
「Welcome Seizi」の謎が解けた。Seiziとは、この車の正式なオーナー、北峰の父の名であった。
ここまで半強制的に引っ張ってこられて、混乱しかなかった真紘はまだまだ夢をみているみたいで、現実直視がなかなか難しい。
はじめての乗るクーペの視界からみる夜の町は、真紘の知らない顔をしていた。低い位置からみる街灯は、頭上のずっと高い位置で規則正しくどこまでも続いていて、何かの儀式に向かうかのよう。
ゆっくりとオレンジ色が筋引いて後ろへ流れていく。そのオレンジの光の流れに合わせて、北峰の茶色の髪が輝いた。
ネクタイ姿のイケメンが、高級車を運転する――その姿は、とても絵になる。下手に声をかけてはいけない、そんな厳かな空気になっていた。
真紘が黙って乗っていることに、北峰は特に気にはしていない。助手席からみる北峰の横顔はただただご機嫌で、嬉しそうにハンドルを握っている。「気分がいいからドライブにいく!」といったのは嘘ではない。案件が通って、本当に北峰は嬉しいのだ。
走り出してからしばらくして、こんなことにも真紘は気がついた。
「え、もしかして、MT車?」
思わず声に出してしまう。
やたらと北峰の左手の動きが忙しいなと思ってセンターコンソールを確認したら、見慣れないシフトノブがあるではないか!
真紘はずっと内装のことなど、心内で感嘆していた。あまりはしゃぐと田舎者丸出しだから。
だが、北峰の運転がマニュアル・ドライブであることがわかったときにはもうダメであった。
素っ頓狂な真紘の声に、おかしそうに北峰が答えた。
「そうだよ。たまには動かしてやらないと」
「北峰さん、ずっとマニュアル車に乗っているのですか?」
「今は、な」
「今は?」
「これ、父親の車。本当の俺の車は父親が乗っている。しばらく交換してくれといわれて、俺のEVを持っていかれたんだ」
「Welcome Seizi」の謎が解けた。Seiziとは、この車の正式なオーナー、北峰の父の名であった。