そのままの君が好きだよ
「朝の件もあって教室には居づらいだろうし、俺と一緒の方がまだ過ごしやすいかなって思ったんだ。学園全体がクラスと同じ調子の可能性もあるしね。
まさか兄上と遭遇しているとは思わなかったけど」


 サムエレ殿下はそう言って、優しくわたくしを撫で続けた。殿下の手のひらは温かい。わたくしは、男性の手のひらがこんなにも大きくて温かいということを、今の今まで知らなかった。昨日まで婚約者がいたというのに、おかしな話だ。
 温もりに、心のささくれがほんの少しだけ癒されていく心地がする。心地よさに目を瞑ると、殿下の動きがピタリと止まった。


「殿下……?」


 怪訝に思いつつ、サムエレ殿下を見上げる。すると彼は何事かを逡巡し、ややしてわたくしの手を握った。


「よし……決めた! ディアーナ、午後の講義はサボろう!」

「えっ……? えぇ?」


 一瞬何を言われたか理解できず、わたくしは大きく首を傾げる。


「自主休講ってやつだよ。普段はこれでもかってくらい優等生をしてるんだ。偶にはそういう日があっても良いだろう? 
講義の代わりに街でご飯食べて、買い物して、ゆっくり楽しく過ごそうよ」

「でっ……でも」


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