そのままの君が好きだよ
 本当にそんなことをして良いのだろうか?ついついそう思ってしまう。
 これまで講義をサボるなんて、考えたことも無かった。未来の王太子妃として、常に品行方正でなければならない。後ろ指を指されるようなこと、してはいけないと思っていたから。


(だけど)


 今のわたくしはジャンルカ殿下の婚約者じゃない。わたくしの成績が悪くなろうが、街を歩こうが、ジャンルカ殿下の名誉は傷つかない。
 おまけにいえば、わたくし自身の名誉は、既に地に堕ちているようなものだもの。


「ね? 昨日まではダメだったかもしれないけど、今なら平気だろう?」

「でも……わたくしは良くても、殿下は怒られてしまうのではありませんか?」


 誰とでも気安く接してくださるサムエレ殿下だけど、彼の行動は品行方正そのもの。これまで彼が講義をサボったことは無い筈なのに。


(わたくしに付き合って、殿下の評判を落とすわけには……)

「平気平気。講義なんかよりディアーナの方がよっぽど大事だし、怒られたところで痛くも痒くもないから」


 そう言って殿下は優しく微笑む。胸がほんわかと温かくなった。

 これまでわたくしは、サムエレ殿下のことを良きライバルだと思っていた。定期試験の度に彼と競り合ってきたし、互いに切磋琢磨したいと思っていた。彼も同じ気持ちだと思っていたのだけど。


「ありがとうございます、殿下」


 昨日までよりずっとずっと、サムエレ殿下を近しく感じる。殿下はニコリと微笑むと、わたくしの手を引いて学園を駆け出した。
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