そのままの君が好きだよ
「ねぇ……どうしてか尋ねてくれないの?」

「…………ふぇっ? 一体、なにを……」


 情けないことに、素っ頓狂な声が漏れ出る。殿下は悪戯っぽい表情でわたくしの顔を覗き込みながら、手のひらを強く握りなおした。


「俺が兄上を羨ましく思っていた理由」


 そう言って殿下はわたくしの手のひらに、触れるだけの口付けをした。言葉にならない叫び声を上げ、わたくしの身体がビクリと跳ねる。


(嘘っ! いや……だけど…………えぇ⁉)


 パニックで思考が纏まらない。心も身体も全く制御ができなかった。目がクルクルと回る様な、身体が宙に浮かぶような心地がする。殿下はそんなわたくしのことを、真剣な表情で見つめていた。何か言わなきゃと思うのに、唇がちっとも動かない。


「嫌だった? 俺に触れられるの」


 殿下が不安気な表情で、そう尋ねる。わたくしは無意識に、首を横に振っていた。


「――――嫌じゃありません」


 答えながら、頬が真っ赤に染まっていく。淑女としてどうなのだろうと思わなくはないけど、それが事実なのだから仕方がない。


< 35 / 57 >

この作品をシェア

pagetop