そのままの君が好きだよ
「良かった。……じゃぁ、俺の気持ちは?」


 そう言って殿下はもう一度、わたくしの顔を覗き込む。


「嫌? それとも嫌じゃない?」

(殿下の気持ち……)


 考えながら、心臓がドキドキと鳴り響いた。混乱でこんがらがったわたくしの頭の中を、殿下が少しずつ解きほぐしていく。けれどそれと同時に、別の何かがわたくしを侵食していくような、そんな心地がした。


「……嫌なわけがありません」


 答えつつ、わたくしはそっと顔を逸らす。これ以上、殿下の顔を見ていられなかった。恥ずかしくて、照れくさくて、色々と堪らない気持ちになる。今すぐ逃げ出したいような、このまま縋りついてしまいたいような、不思議な気分だった。


「良かった」


 そう言ってサムエレ殿下は嬉しそうに笑う。その途端、わたくしの心が甘やかに震えた。


(どうしてだろう)


 サムエレ殿下が笑っていることが嬉しい。彼の言葉が、握られた手のひらが、瞳にわたくしが映っていることが――――全てが有難く、幸せに思う。


「夜会……楽しみにしているから」


 殿下はそう言ってわたくしを見つめる。頷きつつ、わたくしの唇は自然と弧を描くのだった。
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