そのままの君が好きだよ
 今夜のために用意をしたのは、青と黒を基調としたフィッシュテールタイプのドレスだった。
 これまでのわたくしは、婚約者であるジャンルカ殿下に合わせて、大人っぽく、落ち着いた雰囲気のドレスを選んでいた。未来の王太子妃に相応しくあろうと、上品で隙のない女性を演出していたのである。

 けれど今回、夜会に同席するお相手は同い年のサムエレ殿下だ。おまけにわたくしはもう、王太子ジャンルカ殿下の婚約者ではない。他の令嬢方と同じ――――無理して背伸びをする必要はない。
 そんなわけで、今夜はこれまでと全く趣の異なるドレスになった。サムエレ殿下の好みを想像したり、流行りのデザインを調べたり――――ドレス選びを楽しいと思ったのは、これが初めてだった。


「嬉しいな。俺もディアーナのために頑張ったから」


 そう言って殿下は、心底嬉しそうに微笑む。返事がないことを肯定の意味で受け取ったようだ。正しいけれど、何だか物凄く居た堪れない気持ちになる。


(わたくしも何か言わなければ……!)


 そう思うのに、普段なら自然と口を衝く社交辞令が、何故かサムエレ殿下にはちっとも機能しない。どんな言葉も陳腐に思えてしまって、唇が動かないのだ。


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