そのままの君が好きだよ
(この人は一体何を言っているのだろう?)


 あまりの驚愕に、今しがた聞いたばかりの言葉が理解できない。呆然としているわたくしに、


「君との婚約破棄を取り消したいんだ」


と、ジャンルカ殿下は言葉を重ねた。


(ジャンルカ殿下が、わたくしと婚約……?)


 考えながら、わたくしは小さく首を横に振る。言葉の意味は分かっても、その理由や真意が一切理解できない。彼は相変わらず、憎々し気な表情でわたくしのことを見下ろしていた。ジャンルカ殿下にわたくしへの愛情がひとかけらも存在しないことは明白だ。
 何度か大きな深呼吸をした後、わたくしは意を決してジャンルカ殿下を見上げる。心臓がドッドッと変な音を立てて鳴り響いていた。


「どうして今更そんなことを? 殿下はロサリア様と――――聖女様と婚約をなさるのでしょう? そのためにわたくしとの婚約を破棄したことをお忘れですか?
第一、殿下はわたくしと一緒に居ると疲れると――――そう仰っていたじゃございませんか」


 努めて冷静に口にしながら、わたくしは唇を真一文字に引き結ぶ。
 ジャンルカ殿下は大きなため息を吐くと、クシャクシャっと腹立たし気に髪を搔いた。


「父上――――陛下に叱られたんだ」

「……え?」

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